シリーズ;コロナ時代の企業危機管理
社員に感染者が!どのように対応すべきか?

社員に発症が疑われる場合


 この場合に企業に課せられた最大の使命は、感染の拡大を防ぐことです。PCR検査で陽性が確認された場合は勿論のこと、発熱や味覚障害が生じているなど、感染が疑われる場合、若しくは当該社員が感染者の濃厚接触者と認定される場合(厚労省によれば、「濃厚接触者」とは新型コロナウイルスに感染していることが確認された方と必要な感染予防策を採らずに接触し、或いは対面で互いに手を伸ばしたら届く距離(1m程度以内)で15分以上接触があった場合に該当するとされています)であっても、感染拡大を防ぐためには、当該社員(及びその濃厚接触者)を休業させる必要があります。
 その場合、企業が当該社員に休業手当として給与の60%を支払う必要があるのは、休業が「使用者の責に帰すべき事由による」の場合です(労働基準法第26条)。新型コロナウイルスに感染していることが判明した従業員については、都道府県知事が行う就業制限措置により休業するのですから、「使用者の責に帰すべき事由による休業」ではありません。したがって休業手当を支払う必要はありません。ただし、職務又は職場に関連(業務遂行性、業務起因性)して新型コロナウイルスに感染した場合で(職場内における感染など)、使用者が感染防止に必要な措置をとっていなかった場合には、使用者に「債権者の責に帰すべき事由」が認められます。また、罹患の可能性がある従業員や、熱も下がり通常勤務も可能になっている従業員を、会社側の判断で休業させる場合も、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たり、休業手当を支払う必要があります。なお、感染した社員が休業する場合、その従業員が健康保険の被保険者であり、そのほか一定の要件を満たせば、休業している間、傷病手当金として1日あたり、平均賃金の2/3の額を受給できます。



外部への情報開示


 社内に発症者が出たことを、企業は適切なタイミングで外部(取引業者、ビルの管理者や所有者など)に発表しなければなりません。発表の時期が遅れ、感染が拡大した場合には、取引先の信用が低下し、場合によっては企業自体に責任が問われることになりますから、注意が必要です。また、発表に際しては、発症者個人ができるだけ特定されない方法を用いるなどして、個人情報保護に努めなければなりません。



社員の復帰


 罹患した社員の復帰の目安については、一般社団法人日本渡航医学会と公益社団法人日本産業衛生学会が作成している「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド 第3版」(2020年8月11日版)によれば、次の 1) および 2) の両方の条件を満たすことが条件とされています。
1) 発症日を0日として、発症後に少なくとも10日が経過している
2) 薬剤を服用していない状態で、解熱後および症状消失日から少なくとも72時間が経過している



社内における感染拡大防止策


 社員の感染が確定した場合(若しくは疑われる場合)、従業員が安全に働くことができるように配慮する義務(労働契約法第5条の安全配慮義務)を負っている企業は、緊急に感染防止策を講じなければなりません。この点、前述の「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド 第3版」によれば、保健所からの指示がない場合でも、事業者の責任で社内の消毒作業を行うことが推奨されています。その際には、①消毒の対象は感染者の最後の使用から 3 日間以内の場所とする、②消毒の範囲は感染者の執務エリア(机・椅子など、少なくとも半径 2m程度の範囲)、またトイレ、喫煙室、休憩室や食堂などの使用があった場合は、該当エリアの消毒を行うことなどが推奨されています。

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