MORI’s Law News
ゴーンさんの勾留理由開示公判
日産自動車の資金を私的に流用したとして会社法違反(特別背任)容疑で逮捕された前会長、カルロス・ゴーンさんの勾留理由開示手続きが1月8日午前、東京地裁で開かれました。
https://mainichi.jp/articles/20190108/k00/00m/040/068000c?inb=ys
勾留理由開示公判は,憲法34条後段(「何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」)に規定されており,これを受けて,刑事訴訟法87条がその請求について具体的に規定しています。
そもそも誤解されがちですが,「逮捕」と「勾留」は別の手続です。嫌疑があって逮捕されたとしても,勾留されないこともあります。
勾留については,刑事訴訟法60条がその要件を規定しています。これによれば,勾留の要件は以下のように規定されています。
裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
すなわち,「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があり,かつ1号から3号のいずれかの要件が備わっていて初めて,勾留は許容されるのです。さらに,勾留の必要性がなければならないともされています。
勾留理由開示公判では,これらの勾留(=身体拘束)の要件が備わっていると裁判所が判断した理由を被疑者の前で明らかにさせる手続です。
勾留は,身体拘束を伴い,被疑者を社会から隔絶させるという意味で,被疑者にとって重大な負担を強いる手続です。その手続が採用された理由が明確でなければ,それは違法な手続と言うことになります。そこで,勾留理由開示公判を通じて,その点を厳しく吟味する,そこにこの手続の意味があります。今回ゴーンさんも,この手続により,自身が勾留された理由を明らかにさせる意味合いから,当該開示公判を申し立てたということになります。
ただ,勾留理由開示公判には,上記目的以外にも,いくつかの意味合いがあります。
たとえば,開示公判では,裁判官に対して,勾留の要件の存否等について求釈明(説明)を求めることができます。これにより,弁護人としては,捜査機関がどのような証拠に基づいて勾留請求を行ったかを及び知ることができます。また,開示公判では弁護人及び被疑者がそれぞれ意見陳述を行うことができます(今回ゴーンさんも行っていました)。これにより,公開の公判廷で,被疑者自身の口を通じて,勾留の不当性を訴え,社会にアピールすることができます。
さらに(これはややテクニカルな話ですが),開示公判を請求すると,一件記録を裁判官が取り寄せるため,その間事実上捜査は中断せざるを得なくなります。そこで,タイミングを見計らって,開示公判を請求し,それにより被疑者を連日の過酷な取調べからいったん解放するということも,弁護人としては当然考えるところとなります(なお,同一勾留の継続中は,開示公判請求は1回に限られるとする最高裁決定(昭和29年9月7日最高裁決定)があります。)。その意味で言えば,今回ゴーンさんが逮捕・勾留されている特別背任は,勾留延長後の満期が1月11日,その4日前の開示公判ということで,タイミングとしては絶妙だったと言えます。捜査側としては,満期まであと4日,いよいよ捜査の大詰めであり,被疑者に対する取調べも追い込み段階に入ったところでの開示公判は,勢いを削がれるものだったと思われます。またゴーンさんも,連日接見禁止が付され,弁護人以外との面会が許されずに取調べに対応する中で,一旦勾留状態から解放され,法廷で自分の意見を言うことで,気持ちを新たに取調べ等に対応することができます。それらの意味で,このタイミングでの開示公判請求を選択した弁護人は,「手練れ」だな,との印象を持ちました。
いずれにしても,開示公判を経て,弁護人としては,勾留の取り消し(刑訴法87条1項)を請求していくことになると思われます。勾留満期が迫り,弁護人と捜査機関との攻防が激化している様子が伺えます。